作品レビュー・レポブログ

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映画「スパイダーマン:スパイダーバース」感想・考察【後編】

2019年4月現在公開中の映画「スパイダーマン:スパイダーバース」を観てきました。

 

前編にてさらっと作品紹介、個人的見所①「美麗且つ独特なアニメーション」について,、中編にて見所②「超個性的・魅力的なキャラクター」について書かせて頂きました。

ここからは最後の見所③「良い意味で単純明快・王道ヒーローストーリー」について述べてゆきたいと思います!

中編同様、こちらはネタバレ有りの内容になります。ネタバレダメ!という方はブラウザバックお願いします。

ネタバレなしで感想・プレゼンを見たいという方は前編のみご覧ください。

 

 

 

(※注意!以下ネタバレ含みます)

 

 

 

③良い意味で単純明快・王道ヒーローストーリー

 

スパイダーバースの脚本について言いたいことはとにかくわかりやすいこと!

 

スパイダーマンシリーズ知らないと意味わかんないんじゃないの?」とわかりにくいイメージが先行している印象があるのですが、実際はまったくそんなことなくストーリーそのものが単純明快でわかりやすくなっています。スパイダーマン知識も、あればより興味をもてるとか「ああ、あれね(笑)」と入りやすいのはあるかもしれませんがぶっちゃけまったく知らなくてもいけます。SNS等の感想を探してみるとわかりますが、「初めて観たスパイダーマンシリーズだった」という方もいらっしゃいます。

ひとまず前知識はいりません!

 

そしてストーリーが本当に単純明快!王道ヒーローものです!

と言うと「脳筋ストーリーなの?」と思われそうですがそういうことではありません。そんな力でゴリ押すパワーものではないですし、主人公の精神的葛藤など繊細さも兼ね備えた作品です。

この単純明快というのはプロットがきちんと立っている、シナリオ・筋がわかりやすい、主人公の抱えるものや視聴者に伝えたいテーマのようなものがわかりやすいということです。

一応普段漫画を描いている立場なので、映画を観るときはこういうシナリオやテーマについて意識的に見るようにしているのですが、スパイダーバースはそれが本当によくできていました…

 

最初に主人公マイルスの日々の悩み、現状への不満、葛藤―父親への気持ち―が描かれます。そしてそれらに対する日々に寄り添ってくれる存在・救い手である叔父。最初にきちんと主人公がどんな人間でどんな状況に置かれているか説明がなされます。

 

プロローグが終わり、次にいよいよ物語が始まります。スパイダーマンの力が目覚める瞬間、蜘蛛に噛まれるシーンですね。

そこから主人公に変化が現れます。普通ではなくなっている自分に困惑、動揺…そこに出会う既存のスパイダーマン。しかし彼は出会って間もなく、敵に殺されてしまいます。

このあたりはいろんな意味で、いろんな立場の喪失が描かれます。世界にたったひとりのヒーローを失う世界の悲しみ、スパイダーマンを嫌う父を持ち、普通であることを求められる立場でありながら普通を失う主人公。

この絶望の中出会うのが、異次元から来たスパイダーマン、ピーター・B・パーカーというこの物語における重要な救い手ですね。

 

新たなスパイダーマンと出会うことで彼は1人では成し得なかったことを成し遂げていく。問題をクリアしていき、物語が動き出します。

ですがこれらはすべて仲間の協力があってこそ。結局のところ、彼はまだ力を使いこなせていません。

しかし主人公が力を使いこなし、敵と戦うことができなければ、異次元から来たスパイダーマン達の誰かを犠牲にしなければならない…

一人で戦えるように、自分がスパイダーマンにならなければならない。ここが主人公の課題でした。

 

その後序盤の救い手であった叔父の喪失、父親の本心、それらを経て主人公は葛藤し、立ち上がります。

自分がスパイダーマンになる。

 

物語の筋を立てて説明するのが苦手な私でもここまで書けるくらい、スパイダーバースはわかりやすいです。

作中複数のスパイダーマンが出るように、本作では「誰でもスパイダーマンになれる」ということをうったえています。

父とぶつかり本音を言うこともできない、現状に不満を持つごく普通の少年であったマイルスも、マスクを被ることはできる。スパイダーマンになることはできる。

 

EDムービーも、そのテーマからかわかりやすくたくさんのスパイダーマンが描かれます。世界にたったひとりのヒーローと思っていたスパイダーマンが実はたくさんいて、共に戦うことができる。

過去作を振り返るとより感じますが、スパイダーマンは孤独なヒーローの印象がありました。作中でもピーター・B・パーカーが「誰かと戦うっていいな」というような旨の発言をします。

本作はそこにふれて「誰でもなれる」「ひとりではない」ということを伝えてくれるものだったのではないかと私は受け止めています。

あくまで私の解釈ですが!

それでも私がこうして言語化できるほど解釈できるというのは本当にわかりやすく、よくできた脚本だったということです!

大作でありながらごちゃごちゃせずわかりやすい、視聴後はすっきりした気持ちになる、名作です。

 

 

 

そろそろ劇場公開が終わってしまう頃ですが、私はDVD購入を検討しています…それくらいよかった。本当はもう一度大画面で観たいのですけれど!

近くの映画館でまだ上映されているという幸運な方、是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

映画「スパイダーマン:スパイダーバース」感想・考察【中編】

2019年4月現在公開中の映画「スパイダーマン:スパイダーバース」を観てきました。

 

前編にてさらっと作品紹介、個人的見所①「美麗且つ独特なアニメーション」について書かせて頂きました。

ここからは残りの見所、

 

②超個性的・魅力的なキャラクター

③良い意味で単純明快・王道ヒーローストーリー

 

について述べてゆきたいと思います!

今回はネタバレを含みますのでご注意を!

 

 

 

(※注意!以下ネタバレを含みます!)

 

 

 

②超個性的・魅力的なキャラクター

 

本作品にはなんと複数のスパイダーマンが登場します。私はマジであらすじも何も見ずに行ったので「スパイダーマンが一人じゃない…!?」とその時点で衝撃を受けたのですが、さらに驚くのが全てのスパイダーマンが個性的で全くかぶっておらず、全員が魅力的なこと。

 

主人公マイルスの初心者スパイダーマンぶり、困惑しているヘタレ感は可愛らしく、見ていて応援したくなる魅力的な主人公としてキャラクターが出来上がっています。

 

異次元から来たピーター・B・パーカーのヒーローなのにダメなおじさん感…しかし憎めず、なんだかんだマイルスを気にかけてくれるいい人感が彼を"ヒーロー"というより一人間として立たせています。

 

このメインの2人が個々のキャラクターとしても関係性を見てもとても魅力的でストーリーを際立たせてくれるのですが、更に後から登場する他のスパイダーマンも負けず劣らず魅力的なのです!

 

女性のスパイダーマンであるスパイダーグウェン、とってもキュートな女の子のペニー・ポーカー、スパイダーマンなのに豚!?なスパイダーハムことピーター・ポーカー…

そんな個性派揃いの中、私が特に惹かれたのはスパイダーマンノワール!!

彼は黒がシンボルカラーのハードボイルドなスパイダーマン。普段字幕派の私ですが今回はやむをえず吹替を観て…大正解でした。彼の声優は渋くてかっこいい、大塚明夫さん!!

ビジュアルから元々かっこいいスパイダーノワールの渋さが引き立ちます。皆戦慄したのは敵に向けてのセリフ「おねんねしてな」…劇場の乙女全員おねんねするかと思いました。

その後も渋く深くかっこいい大塚明夫ボイスを浴び続け、いい加減慣れてきたかな?という終盤…

 

目に涙を浮かべるペニー・パーカーに対するスパイダーノワールのセリフ

「大丈夫か?おいで」

 

ウッッッッ!!!!!!

 

死ぬかと思いました。

このワンシーンのためだけにも劇場に駆け込んでほしいと切実に思っている私です。

 

もちろん声優の演技が素晴らしいのはノワールだけではありません!

主人公マイルスから全てのキャラクターが実力派揃いで声だけでも盛り上がる作品になっていると思います。

声優好きな人も別段そうでない人も、楽しんで彼らの会話を見てほしい。

 

 

 

おっと…キャラクターの魅力だけで長くなってしまいました…

ということで最後の1つ、王道ヒーローストーリーについてはまた次回、後編にて書かせていただきます!

みんな!!劇場へ走れ!!!!

映画「スパイダーマン:スパイダーバース」感想・考察【前編】

2019年4月現在公開中の映画「スパイダーマン:スパイダーバース」を観てきました。

 

本作品はこれまでの映画スパイダーマンシリーズとは異なるアニメーション映画!実写では表現できなかった、重力に制限されないスパイダーマンならではのアクションが見応えの作品となっています。

 

ぶっちゃけ私、漫画好きと言いながらアメコミは詳しくなく、映画好きと言いながらアクション映画は敬遠しがちなところがありまして、公開当初はあまり興味をそそられておりませんでした…

が、Twitterなど周りの評判がよく、皆がそう言うならいってみようかなー?と、上映終了ギリギリに滑り込んだ次第です。

 

で、そこまで興味をそそられないまま観てきた感想………

 

 

めっっっちゃ良い。

はちゃめちゃに面白い。

 

 

スパイダーマンについては過去の3部作を観た(けど随分前に見たのでもう忘却の彼方)くらいで詳しくなく、なんなら知らないことの方が多いレベルの私だったのですがそんなことは問題じゃないくらい面白い。というかそもそもが親切設計で、初見の方にもわかるようにちょこちょこ解説を挟んでくれます。「説明しよう!」って感じで。

とにかく全ての方におすすめできる作品でした!私のように興味持ってなかった方に気づいていただきたい…!

 

ということでネタバレなしのレビュー&プレゼン。

スパイダーバースの何が面白いか、以下にまとめますと…

 

 

①美麗且つ独特なアニメーション

②超個性的・魅力的なキャラクター

③良い意味で単純明快・王道ヒーローストーリー

 

です!

順番にネタバレなしで解説していきます!!

 

 

 

①美麗且つ独特なアニメーション

 

アニメーション映画の作画がすごい!っていうのは最早当たり前になってることですが、本作は美麗なだけでなくとても独特な作りで、他では見られないアニメーションになっています。

 

3D主体のアニメーションではあるのですが、アメコミ調の手書き、演出が加えられており、2D的な表現も散見されるのです。

スピーディーな場面ではキャラクターの周囲を集中線がとんでいたり、爆発シーンでは「BooM」と文字が出現したり、吹き出しが出てきたり、コミック的!それがより目を引き、迫力ある場面に仕上がっています。

こればかりは文字では表現し難い…あの勢い、実際に見て!としか言いようがありません。

このアニメーションを大画面で見るために劇場に走っていただきたい!

 

 

と、長くなってしまうので一旦ここで切ります!

続きは後編にて…前編を読んだ段階で興味を持って下さった方は大至急劇場へ!

映画「グリーンブック」感想・考察【後編】

2019年4月現在公開中、アカデミー賞3部門受賞作品「グリーンブック」を鑑賞してきました。

 

前編、中編と長々語ってきましたがいよいよ後編。

前編ではあらすじや全体的なストーリーの印象、中編では二人の主人公についてつらつらと語りましたが後編はかなりピンポイントなキャラやシーンの感想を燃え滾る思いで書き連ねていこうと思います。

中編以上のしっかりネタバレになるかと思います。未視聴でシーンの詳細とか知りたくない!って方は絶対読んじゃだめ!

既に観た方で「みんなどのシーンがすき?^^」くらいの気持ちの方大歓迎な感想です。

 

 

 

 

(注意!以下ネタバレを含みます)

 

 

 

 

はい!!好きなシーン・キャラなどをとりとめもなく書きます。

 

 

 

・トニーの家庭での振る舞い、帰宅後のシーン

 

前編、中編でもふれてますが本当にトニーのキャラがつかめる冒頭のシーンがいいな…と思ったのです。

 

いい感じのお父さんが、家の中にあがった黒人の業者に眉をひそめる。そして彼らが帰ったあと、なんと彼らが使っていたグラスをゴミ箱に捨てる!

これはかなりのインパクトでした。いや、黒人差別が題材と聞いてはいましたしもっと激しい差別がくると構えていましたが、こんなナチュラルに、こんなどっかり差別が演出されると思わなくてびっくりしました。

後から気づく奥さんの反応も、びっくりしつつもわかっちゃう。なるほどこんな風に普通の方々の間に差別が根付いてるんだなーとよくわかるシーンでした。

 

また、なかなかあくどいことをして帰ったトニーが家族に対しては優しく愛情深い描写が冒頭にあるのがよいですね。こんないいやつが…!!って何度も思ってしまう。

眠る奥さんに寄り添うシーンなんかはキュンとしました。こんな粗暴な男が奥さんには優しく触れるのだなあと…恋愛映画ではないのにこの一瞬にときめいてしまいました。

その後長期間家を離れるトニーに奥さんが寂しがるのも大納得。よい家族関係がうかがい知れる場面でした。

 

 

 

・旅の道中、シャーリーとトニーの掛け合い

 

本作のメインともいえる二人のやりとりですが、これがいちいち面白い。本当に正反対の二人なんだなあというのが一言一言に込められていて、会話するごとに彼らのことがよくわかるようになっています。

 

トニーは何もシャーリーに対し敵意だとか悪意だとかを剥き出しにしているわけではなく普通に話しているのですが、それでも言葉の端々に「黒人とはこういうもの」という先入観が見受けられます。それに対し全く当てはまらない、”黒人っぽくない”シャーリーの返し。これが後の伏線にもなっているんですね。

 

素手でフライドチキンにしゃぶりつくトニーが「黒人ってのはフライドチキンを素手で食うもんだろ?」と思いっきり偏見をぶつけちゃうのが、申し訳ないけれども面白い。良いことではないですが、なるほど、こういうところに差別が潜んでいるのだなとわかる良い例でした。

その後食べ終えた骨を車の窓から捨てるトニーの豪快さには笑ってしまいます。お前の方こそお前の言う「黒人っぽいやつ」だぞ!と。その後続けて放ったカップを回収するよう促すシャーリーの理性的なところもいいですね。彼らはそれぞれのステレオタイプがあべこべになっていて面白いです。

 

 

・トニー(シャーリー)から奥さんへの手紙

 

最初のトニーの手紙に対するシャーリーの指摘がなんとも面白い(笑)

そして続くシャーリーの文章力。繊細でセンスあふれる言葉選び…トニーとのギャップが激しく笑いがこみあげます。

その手紙が奥さんのもとへ届くと、奥さんとご友人の女性共々うっとり…「トニーにこんな才能があったなんて…」この一連の流れには劇場の観客も皆さん笑っていました。ピーター・ファレリー監督のコメディ節がよく効いてますね。

ですがこのお話の素敵なところは最後の最後にあると思います。観た方なら皆さんわかって頂けるはず…

 

映画のラスト、シャーリーに向けた奥さんの一言、

「手紙をありがとう」

 

そう、奥さんはトニーがあんな素敵な文章を書けるはずがないとわかっていたんです!(笑)

けれどわかっていて、先述したとおり友人とともにうっとりし、書いてくれたトニーに想いを馳せていた。

なんてチャーミングな奥様なのでしょう…トニーのことをよく理解し、シャーリーにも感謝の念を向けている。ちゃんとわかっている奥様でした。

 

はい、私、本作における奥さんのキャラクター好きです。彼女は本作におけるほっこりポイントだと思っています…

 

 

・ラストシーン、伏線回収

 

さっきもふれたじゃん!と思われるかもですがそうじゃないのです!奥さんの抱擁、セリフも最高だったんですが、ここの大事なところはそもそもシャーリーが自ら出向いてくれたこと…その尊さなのです…

 

旅の終盤トニーの知人と遭遇し、こっそりイタリア語で黒人差別を受けるシーンがありました。その場はトニーもなんとかかわしましたが、イタリア語がわかってしまったシャーリーの胸にはちくりと刺さってしまいます。トニー本人がそうであったように、彼の身近な人間の多くは黒人に対し差別的意識があるのだろうとここで察してしまいます。

 

これを踏まえた上で、クリスマスパーティーを開催しているトニーの家に出向くなんて、そう簡単にはできませんよね。以前のシャーリーだったら考えられなかったのではないでしょうか。

ここで彼が自ら足を運ぶことができたのは、作中トニーが言った「寂しい時は先手を打て」という言葉のおかげだと思います。

 

先程の手紙のエピソードの中で「兄に手紙を送れよ」とトニーがシャーリーに言うシーンがありました。対しシャーリーは「兄は私の住所を知っている」と返します。

こちらの住所を知っているのにも関わらず手紙を送ってこないということは、用はないのだろう。関心はないのだろう。つまりはそういうことなのだろう、というシャーリーの孤独と諦めが見えます。

そうして尻込みしているシャーリーに対してトニーは先手を打てと背中を押しました。

これが最後に活きたのだと思います。素敵な伏線でした。

 

本作の一番好きなところです。

私もシャーリーのように、寂しくても「相手に悪いし…」とひとりでどうにかしようとするところがあるので、トニーの言葉は本当に刺さりました。

寂しい時は先手を打とう。存外相手は快く受け入れてくれるし、実は待っていたりするのです。

 

 

 

以上!私の好きなポイントでした。

ネットでは当然ながら賛否両論ありますし、私が一番好きだと言ったラストシーンの伏線回収にしても言葉足らずだという意見があったりもしますが、それでもとにかく私は好きでした…

また誰かと観たいなと思う作品です。

映画「グリーンブック」感想・考察【中編】

2019年4月現在公開中、アカデミー賞3部門受賞作品「グリーンブック」を鑑賞してきました。

前編にて

・あらすじ

・「グリーンブック」とは?

・全体的な物語のいいとこ

・主人公の魅力

というようなところをざっくり表面を撫でるように語らせて頂きました。誰かの興味は引けていたかな…?観てみようと思って頂けたでしょうか?

中編、後編ではネタバレを含め、がっつり感想を述べたいと思います。本編のエピソードにもふれるのでまだ観ていない方は要注意!

 

 

 

 

 

(注意!以下ネタバレ含みます)

 

 

 

 

 

はい、ではここからはただただ私が好きだったシーンやセリフ・「うまいな…」と思ったポイントについてふれていきたいと思います。

 

 

 

・前編でもふれましたが、まず主人公トニー・リップがうまい!!良い!!

 

役者さんの演技力という意味ではもちろんですが、キャラクターの作りがうまいなあと思いました。実在の人物だったという強みはあると思いますが、本当に生きた人間みがあるというか、欠点が多く見られながらにくめないキャラクターの作りがうまい。

キャラの良さついては前編でも語ったので多くは語りませんが、こういうどこにでもいそうなにくめない良いやつが、ごく自然に差別をしているというのが本作の導入において重要なのだと思います。

私達は道徳の授業なんかでなんとなく「差別はいけないこと」と認識していますが、差別そのものへの認識は薄いのではないかなあと思います。

 

「差別をするような人ってどんな人?」「プライドが高くて傲慢で攻撃的な人?」

「差別ってどういうこと?」「敵意を向けること?悪意を向けること?」

 

本音を申しますと私はこんな感じでした。差別を肯定する気はもちろんさらさらありませんが、具体的イメージがあまりにもわかず、遠い印象でした。

少なくとも私と、私の身近な人で差別をすることはないだろう、というくらいの認識です。

 

そんな私にぶっこまれたのが本作の主人公、トニー。

こんなどこにでもいそうな男が自然に差別をしていること、その差別のし方が露骨な敵意や悪意を示すことではなく、日常の中でひっそりと行われていることが私にとっては衝撃であり、同時に納得しました。

なるほど、差別とはこのようにひそんでいるのか、と。

 

このように、視聴者が好感を抱いて見られる主人公を通して差別がわかる作りになってるのがよくできてるなと思いました。

そしてこの差別を通しながらも、やっぱりトニーのことをにくめない…なんだかんだでいいやつなんだというのが感じられるのです。

いやー…いい主人公です。

 

 

 

・差別を受ける側…ドクター・シャーリーの葛藤の描写

 

もう一人の主人公、孤高な天才黒人ピアニスト、ドクター・シャーリー。

彼はトニーとは何もかもが正反対、暮らしている環境も性格も違います。ガサツで粗暴なトニーに対し、ドクター・シャーリーは上品で物腰のやわらかな男性でした。無学なトニーに対しドクター・シャーリーは音楽のみならず心理学、典礼芸術の博士号を取得し、複数の言語を話すことができました(だからこそ、異国語の差別発言にも気づいてしまう場面もあるのですが…)。

そしてトニーはドクター・シャーリーに対しても黒人差別をしてしまいますが、ドクター・シャーリーはそれに気づきながらも、トニーのトラブル解決力を買います。

 

ドクター・シャーリーは作中数々の黒人差別にぶつかります。最初のトニーのささやかな言動に始まり、南部への旅で各方面から、まさかの警察からも過激な差別を受けます。

差別意識をもったトニーを雇い、差別の色濃い南部へ赴き、黒人が一人で出歩いたり夜中に外出するのは危険と知りながら町へと繰り出すドクター・シャーリー。なぜ彼はそんなことをするのか?視聴者の抱く疑問をトニーが作中代弁してくれます。

 

その疑問への答えは少しずつ、物語の後半に明かされます。彼はあまりにも孤独でした。彼が抱えている孤独は「黒人差別」だけではなかったのです。

 

雨の中彼が訴えた言葉は鮮烈でした。「いったい自分は何者なんだ?」

 

黒人でありながら、皆の言う黒人らしさを持たず、けれど絶対に白人にはなれない。どちらにも属すことができず、どちらからも、どこからも偏見をもたれてしまう。

穏やかなたたずまいでありながら、胸の奥には苛烈な孤独を抱いていました。

彼ほどの孤独を抱えた人間はそうそうどこにでもいるものではない(いてほしくない)と思いますが、ですがこの「己が何者なのか、自分はどこに属すことができるのか」という孤独は誰しもあるものだと思います。

そんな彼がどのように孤独と立ち向かい、闘ってきたのか、多くの方に観て頂きたいです。

また、彼がトニーからの言葉を受け、心が救われるシーンは視聴者も救われるものがあると思います。ぜひ観て頂きたい。

 

 

 

主人公2人のことを語るだけで長くなってしまいました…

後編ではもっとピンポイントなコメントをしていきます。すごいピンポイント。既に観た方も「あ、このシーンよかったよね」と共感して頂けるかな?

映画「グリーンブック」感想・考察【前編】

2019年4月現在公開中、アカデミー賞3部門受賞作品「グリーンブック」を鑑賞してきました。

本作は実話をもとにしたバディムービーです。(脚本を務めたニック・バレロンガの父親トニー・バレロンガが主人公。父から聞いた話を50年以上温め続け、今回ついに製作となりました)

 

 <あらすじ>

1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は<黒人用旅行ガイド=グリーンブック>を頼りに出発するのだが…

 

<グリーンブックとは>

1936年から1966年まで、ニューヨーク出身のアフリカ系アメリカ人、ヴィクター・H・グリーンにより毎年作成・出版されていた、黒人旅行者を対象としたガイドブック。黒人が利用できる宿や店、黒人の日没後の外出を禁止する、いわゆる「サンダウン・タウン」などの情報がまとめてあり、彼らが差別、暴力や逮捕を避け、車で移動するための欠かせないツールとなっていた。

 

ここまでのあらすじ、説明を読むと黒人差別という題材からも重いシリアスな作品かと思われるかもしれませんが、本作はなんとコメディー・ドラマに分類されています。

というのも本作の監督は「メリーに首ったけ」などのコメディ映画で知られるコメディの名手、ピーター・ファレリー!そうと知らずに本作を鑑賞したのですが、納得です。

題材が題材ですので痛快強烈ギャグコメディ!ではもちろんありませんが、ところどころに笑いがちりばめられており、見ていてず~んと沈痛な気持ちに陥ってしまわない、上手い構成になっていたと思います。

 

 

そう、本作の素敵なところは「黒人差別」がテーマにありながらひたすらに気持ちが沈んでしまうものではない、つらくも明るく、胸がすっとすくような作品であることです。

 

 

つらく苦しいシーンはたくさんあります。黒人差別に出くわす場面は日常的にあり、見ていて「大丈夫だろうか」とハラハラ不安な気持ちになることも多々あります。

それでも安心して見続けられるのはピーター・ファレリー監督の手腕(コメディのちりばめ力)もあると思いますが、なんといっても主人公トニー・リップのキャラクターの力があると思います。

 

トニーもまた黒人差別をする側の人間でした。あらすじにもある通りガサツで無学、粗暴なふるまいをする男で、これだけ読むと「いやなやつだなあ」と思われるかもしれません。

ですが画面上で描かれる彼は、そのとおりであるのですがにくめない!なかなか乱暴な言動をしていてぶっちゃけ私は「お近づきになれそうにないな…」と思ったりもしたのですが、それでも彼の家族・身内に対する態度や仕草を見ていると「なんだこいつ、いいやつだな…」と思わされるのです(筆者がチョロい可能性はスルーしてください)。

ストーリーの冒頭部分だけでトニーの気の良さ、己の気を許した人間へのやさしさが見てとれる作りになっており、視聴者の多くは彼に親近感を抱くのではないでしょうか。

 

 

そんな気の良い、妻や子供を大切にする男でも差別をする。

そんな男が主人公であり、物語を転がしていく作品なのです。

彼にハラハラしながらも彼の頼もしさに救われる、面白い作品ですよ。

 

 

ここまではあらすじ、表面的なさらっとした感想を述べて参りましたが、後編にてネタバレありの感想を述べたいと思います。

ここまでで興味を持って頂けた方、まだ上映しているうちに劇場へ!(※2019.4月現在)

映画「ROMA/ローマ」感想・考察【後編】

先日、アップリンク渋谷にて映画「ROMA/ローマ」を観てきました。

前編に続きまして感想・考察を述べていきます。

 

前編で記述しましたが、私の本作に対するかなり大雑把な感想は

「めっっっちゃ泣いた」

「邦画っぽい」

でした。後編では後者「邦画っぽい」について書きます。

 

 

 

(注意!以下ネタバレ含みます)

 

 

 

・「邦画っぽい」

 

てめえが邦画の何を知ってんだと言われそうですがそのへんはどうか流してください。一応邦画好きで結構観てるつもりの立場から述べさせて頂きます。

 

前編の冒頭で述べたように、本作はキュアロン監督の過去作に比べるとかなり穏やかで静かな印象の作品でした。自伝的物語なのだから当然といえば当然なのですが、派手なアクションシーンもなければ激しい映像演出もない。ひたすらに淡々とした、とある家庭の日常が描かれています。

それが良くも悪くも邦画っぽい。冒頭数十分は本当に何も起こらない。いや、何もないわけではないのですが、「物語」「映画」として観るとそれほど強い出来事は起こっていないのです。…いや、現実に自分の身に起こったらつらい出来事は多少起こっていますが、作中での描かれ方も悲劇的でなくさらっとしているのです。

本当に身近にありそうな喜怒哀楽、日常を淡々と描いている感じがなんとも邦画っぽい。へたすると「今私は何を見させられているんだ…?」と思い見るのを中断しかねない何もなさ。正直テレビ放映だった場合、途中でチャンネルを変えられる可能性の高い冒頭だなあと思いました。

劇場という箱に詰めて見せる形の映画だからもつ構成という気もしました。私は普段漫画を描くので読者が読むのをやめてしまわない冒頭とは…とか考えたりするのでよけいに感じました。映画だから許される構成かなーなんて。

 

これが悪い!というわけではないです。良くも悪くも、です。

前編でも述べましたが、このただひたすらに続くなんてことのない日常の中にそれぞれのキャラクターが描かれているからこそ、後半の劇的な出来事が活きているのです。

例えば朝、クレオが子ども達を起こすシーン。ストーリーという観点ではとくに必要のないシーンに思えますが、ここにクレオの人柄・愛情深さが出ています。

小さな女の子を起こす時はおどけたように、小さく唄を口ずさみ、手や指先を使って遊ぶように。

少し大きな男の子を起こす時はやさしいけれど普通に、年相応の子として起こしてあげる。

それぞれの子をちゃんと見てそれぞれに合った起こし方、接し方をしているのが見てわかります。こういう描写がなければクレオのことを「とある家庭の家政婦」としか見ることができず、終盤の展開の熱量も変わっていたと思います。

後半の盛り上がりのための描写といえるわけです。

 

少々話は脱線しますが、これらの点で私は是枝裕和監督の「歩いても歩いても」や吉田大八監督の「パーマネント野ばら」などの邦画を思い出しました。

とある家族や田舎のそれほど派手ではない日常を描き続け、最後の方でぎょっとするようなエピソードをぶちこんでくる。そこまでがなかなかゆるく、人によっては飽きて眠ってしまいそうな描写だったりするのですが、それがあるからこそ最後のインパクトが強くなる。

「ROMA/ローマ」もそれに近い作りの映画だったのではないかな?と思います。そういう意味で邦画っぽい。

 

 

と、いうわけでした!!

以上が私の感想・考察です。いろいろ言ってはきましたが、最終的にとても好きな作品となりました。

あの静かな邦画っぽさは万人受けはしないと思いますが、それでもおすすめな作品だと思います。ここまで読んでる方で未視聴の方はいらっしゃらないかもですが、もしいらっしゃればぜひ観て頂きたいです。

 

そうそう、作中出てくる犬がかわいい。ジャンプ力がすごい。